「えっ? なんで? 私バス通だし、ここからなら歩いても20分くらいだし……虎鉄の帰り道とは逆でしょ」
「逆ってほどでもねえし、バス通っても、徒歩あるんすよね?」
「あるけど……」
オリガクからバス停まで5分と掛からないし、降車駅から自宅まで歩く時間を合わせても、10分やそこらだよ。
それに今朝、寝坊した虎鉄がスクーターでバクを迎えに行って15分も掛からず登校できたことを考えると、帰り道が逆ってほどでもないってことは分かるんだけど……。
「虎鉄に送ってもらうほど深刻な事態じゃないよ?」
「心配なんすよ」
「……、まあ、心配じゃなきゃ送るなんて言わないでしょうけども」
「守るって言ったじゃないっすか。送らないで先輩になんかあったら、たまったもんじゃねえし」
たまらないのは、私のほうだ。
「取り越し苦労に終われば、それでいいんすから」
真顔で、淡々と、当然のように言葉を紡ぐ虎鉄は本当に、私の知らない男の子。
断れば消えてしまいそうな心配を装うわけでもなく。
これはチャンスだと好意を見せるわけでもなく。
お返しを期待する下心を感じさせるわけでもなく。
自身の気持ちをひと欠片だって誤魔化さず、さらけ出す。
虎鉄みたいな男は知らない。反応に困る。恥ずかしくなる。うろたえてしまう。そんなことばかりで、たまったもんじゃない。



