「お待たせ」


窓の外を見ていた視線を、背後の扉に向ければ、お盆に湯呑を二つ持った馨さんがいた。



「ありがとうございます」


立ち上がると、馨さんは、いいよいいよ座って、と近付いて来て、わたしの隣に立つとその湯気だつ湯呑を机に置いた。


ストンと座るわたし。


馨さんも満足そうにお盆を足元に置いて寝台に座った。


視線を、馨さんに向ける。馨さんは、わたしの髪の毛を見ていた。



馨さん?

呼ぶと、馨さんは、ゆっくりと口を開いて、身を前に乗り出した。


「小春ちゃんって髪も綺麗だよねぇ」


パチり、瞬く。


「触って、いい?」



馨さんは、言って、すぐに左手を伸ばした。

パチり、また、瞬いて、わたしは身を固める。

触れるの、?


「小春ちゃん、髪おろした方がいいんじゃないかな、折角綺麗なんだもん」


スッと、馨さんはわたしの高く結われた髪に手を入れた。


「泣かないでね、泣かれちゃうと、春近に怒られるから、ていうか触るなって言われてるんだけど、無理無理。小春ちゃん可愛い過ぎるもん」



何も言えないで、馨さんを見上げて、目を伏せて、



そうすると、馨さんは立ち上がって、右手をわたしの頬に置いた。

弾けたように、わたしは馨さんを見上げた。


馨さんは、甘美に笑って、わたしを見下ろしていて、



少しデレッとした、わたしの、先生。
春近さんの、お友達。


怖くて、言い聞かせるようにわたしは心の中で復唱した。


だって、どうして、いいか、わからなくて、それに、

わたしは、春近さんと、約束していることがあった。