春になりました。




青年は鈴をつくっています。




工房に溜まっていた闇は、どこかへ消えていました。でも、かわいそうだったので、少しは椅子の裏に残っています。




 開いた窓から風が吹き込んで、カーテンを膨らませます。


すると決まって、カーテンに付いた鈴が、さわさわとそよぐ草原のように、爽やかな音を出すのでした。




そう、彼女の足音です。



風が吹くたびに、青年は、彼女が工房を歩いていたころを思い出せるのです。



そして、彼女が近くにいてくれるような、幸せな気持ちになるのです。





 相変わらず一人で、鈴をつくり続ける毎日ですが、青年はもう以前とは違います。



誰かに愛されることも、誰かを愛することも知ったのですから。


失う悲しさも知ったのですから。


今では、誰もが見逃してしまいそうな喜びにも気が付きます。







 ほら、お客がやってきました。





 鈴の音はいつまでも、工房に季節を届けます。