話してしまいたい気がする。

自分の内側の、あやふやな気持ちを、頑張ってかたちにしようとしないで、そのまま。

ティーカップのなかの赤い湖に、さざなみ。

重なり合う輪を、無意識に数える。
タイミングを計るみたいに。

ふっ、と、俯いた文佳の頭の上で、あやせが溜め息をついた。

「時間ぎれ」

視線の先を見やれば、いままさにドアを開けた、高遠の姿があった。

180cmを超える長身に、愛嬌のある顔立ち。真っ黒な髪はぼさぼさだけど、『そういうスタイル』だと思えば思えなくもない。

ワンコである以前に、高遠は、人並み以上に目を引く青年だった。

遠くから見ればまるで、知らないひとのよう。

―ズキン、と胸の奥がうずいた。