「どうしたの?」
ぼんやりマダムたちを眺めて母に思いを馳せていると、その様子を見て心配した匠先輩に声をかけられた。
「いえ、雪が溶けてきたなと思って」
私はそう適当に返答した。
母のことは、恵一のいるこの店ではあまり話したくない。
「そうだね。このまま溶けてくれたら、今夜は原チャリで帰れるかもしれないね」
「だといいんですが」
「路面が凍ったりして危ないから、慎重にね」
「はい。ありがとうございます」
今朝、私は匠先輩が出勤する前に恵一の部屋を出て、シフトの時間に戻ってきた。
もちろん雪で真っ白になっていた原チャリはここに置いて、バスを利用して行き来した。
時間に自由が利かないのは不便だ。
都会ならもっと便があるのだろうが、ここは片田舎。
ちょうどいいタイミングでバスが来ない。
結果、いつもより30分も前に家を出る羽目になった。
そう愚痴ると匠先輩は、
「安全第一だよ」
と笑ってくれた。
うん、やっぱり私の好みはこちらなのだ。



