足音は遠ざかり、やがて厨房の方から物音がしだす。
もう一度、あの場所を開くしかない。
さっきはなかったあの通帳を見てみるしかない。
私は足音を殺してクローゼットに忍び寄る。
恵一に気付かれないよう意識を集中させて、音をたてないようゆっくりゆっくり左側の扉を開く。
左下の引き出しを開け、先程彼が放り込んだと見られる通帳を取り出した。
手が少し震えている。
ペラッ、ペラッ……手早く通帳のページをめくる。
無い。無い。無い。
こっちの通帳にも、母の名前はなかった。
なぜ?
なぜどこにも名前がないの?
母はつい数ヵ月前まで、確実に送金をしていたはずなのに。



