翌朝、私が目を覚ますと、恵一はベッドにいなかった。
意識がはっきりするにつれて、小さくテレビの音が聞こえてくる。
その次にトーストが焼けるような香ばしい香りを感じ、また恵一が朝食を準備してくれたのだとわかる。
恵一は早起きが得意らしい。
寝坊助な私がゆっくり起き上がると、恵一は店の金庫とにらめっこしていた。
「マスター」
呼び掛けると顔がこちらを向いた。
黒くてウェーブのかかった長い髪が揺れる。
「おう、起きた?」
優しい笑み。
「おはようございます」
「おはよう。飯にしよう」
「はい」
ベッドから出るとまだフローリングが冷たい。
部屋はまだ十分に暖まっていないが、スープとコーヒーが身体を温めてくれる。
「うっすら積もってるぞ」
「えっ? 雪ですか?」
「ああ、今日は原チャリは無理だな」



