「亡くなった母を、ご存じではないかと思って」 「君の、お母さん?」 「はい。厳密には育ての母親です」 「名前は?」 「松井紀子と言います」 父親は記憶の引き出しを漁るように軽く唸る。 数秒後、恵一が言葉を発した。 「俺を産んだ人だよ」 父親はハッとして私の顔を見る。 「当時はまだ、私はその事を知りませんでした。奥様に教えていただいて、初めて母と恵一さんのことを知りました」 父親は眉間にシワを寄せたまま、頷くだけで言葉は発してもらえない。 怖い。