「緊張した。チャイム押して出てきたの、親父さんだったし」
お父さん、ビックリしただろうなぁ。
デカくてロン毛で無愛想な男が、かしこまって私に会いたいなんて言うんだから。
「そういえば俺、親父さんにちゃんと挨拶できてねーや。ああ、どうしよう。今さら怖くなってきた」
表情をコロコロ変える恵一。
こんな顔、初めて見た。
いろんな表情があるんだな。
知らなかった。
母親や見合い相手の顔を立てることも忘れて私を追ってくれたり、ここまで来てくれたり、クールな彼が焦っている顔を見られたり。
恋の力は偉大だ。
不幸続きに気分がドン底だったのに、もうこんなに幸せな気持ちになっている。
勇気が湧いてきた。
欲をかいて死にそうになったけれど、私はまだ生きている。
足にヒビが入ったけれど、ここなら、これ以上の傷はつかないはず。
だから、少しだけ。
欲をかいてもいいですか。
素直に、なってみたいのです。



