目を合わせることなく玄関へと向かう彼を追った。
もうきっと、彼に会うことはない。
もしどこかですれ違っても知らないふりをするだろう。
「マスター」
靴を履く恵一の背中に呼び掛ける。
「ん?」
こちらを向かないもの寂しさ。
「マスターが作ってくれたご飯、美味しかったです」
「当たり前だろ」
「それと、マスターが淹れてくれたコーヒー、美味しかったです」
「ははっ、プロだからな」
「それからっ……」
私は震えそうになる声を落ち着かせるため、一旦言葉を区切った。
「マスターが抱き締めてくれると、すっごく温かかったです」
それでもやっぱり、恵一は振り向かなかった。
「うん」



