「ちょっと……出来ればそれはカンベンしてほしいかな……あははは……」

 乾いた笑いをもらすあたしに、黒斗は案外あっさり「いいぜ」と言った。


「へ? いいの?」

 拍子抜けして聞いて、次の言葉にあ然とした。


「別にお前からじゃなくてもいいぜ? でも、俺からする場合は一回が昨日の濃厚なのだと思えよ?」


 あ、『いいぜ』ってあたしからじゃなくてもいいって事か。


 まずそう考えてから、後半の言葉に顔を更に真っ赤にする。

 昨日されたキスを思い出したから……。
 

 
 優しい口付けなのに、その唇は貪(むさぼ)るようにあたしの唇をついばむ。

 その舌は、あたしのそれを絡めとりもてあそぶ。

 吐息すらも吸い取られる感覚に、あたしの意識はすぐに朦朧(もうろう)としてきた。


 そのあとはもう、黒斗に全てを任せてしまった。




 ソレをやるってこと!?

 冗談じゃない!


「それもカンベンして欲しいなー」

 ダメ元なのは百も承知の上で言ってみる。

「それはダメだ」

 ちっ、即答しやがった。


「何にせよ、そのときどきの報酬は俺が決めるからな。お前はその都度俺を楽しませればいいんだよ」

 ムッカー!


 黒斗の言葉にムカついたあたしは、顎を掴んでいる手を振り払い叫んだ。


「この! 鬼畜ドSの腹黒斗ーーー!!」

 そしてそのまま走って教室に向かった。


 うん、要は逃げた。


 だって、そのまま一緒にいたら何されるか分からないからね。

 だから他人の目がある安全な場所に逃げたんだ。


 後でどうなるかとかはこの際気にしない方向で……。



 とにかく、高志のこともとりあえずは決着ついたし、しばらくは何もなければいいんだけど……。