講堂の入り口には、時間ギリギリだったけど何とか着いた。
雪さんと怜さんがその場にいなくて良かった。
いたらきっと……いや、絶対小言の嵐が起きただろうから……。
息を整え、身だしなみをもう一度軽く整える。
生徒会の役員の一人が準備はいいかと聞いてきた。
大丈夫だと分かると、司会をしている雪さんと怜さんにその旨(むね)を伝えに行った。
『では、ジュエル一年、柳川 友の入場です!』
中で雪さんの芝居がかった声が響くのが聞こえてくる。
その声と同時に、吹奏楽部の演奏が始まる。
黒斗があの腹黒さを欠片も見せないいつもの表情で、あたしの手を取った。
あたしも、ジュエルとしての仮面をつける。
強く、美しい宝石となるために。
扉が開かれ、あたしは黒斗にリードされるように全校生徒の間の通路を歩いた。
吹奏楽部の演奏の中、まだわずかにざわめいていた生徒達。
あたしが側を通ると、その一帯はシン…と静まり返った。
波紋が広がるようにざわめきは静まっていき、あたしがステージの中央に来る頃には、吹奏楽部の演奏しか聞こえてこなかった。