その余裕な態度に、あたしは怒りがこみ上げてきた。

 でも、感じてしまっている体は怒りを表現できる状態じゃない。


「やだぁ……」

「ホント、友ってイイ顔するよな」


 顎を掴まれ、鏡を見せられた。

「ほら見ろよ。……エロい顔してる……」



 鏡に映ったあたしは瞳を潤ませ、頬は上気し、唇が魅惑的につやめいていた。



「知ってるか? 女の化粧って、感じてるときの顔を表現してるんだぜ?」

 またも妙なマメ知識を披露する黒斗。

「つまり、女は感じてるときが一番綺麗だってことだ」

 耳元で、黒斗の低い声が囁く。


「俺がお前をもっと綺麗にしてやるよ……」


 その声は耳から心に届き、堕とされていくような感覚を覚えさせた。

 でもあたしは堕ちきる前に踏みとどまる。



 ま、負けるもんか~!!


「あ、あんたの好きにはさせないんだから!」

 あたしは黒斗の手が動きを止めた瞬間を狙って叫んだ。

 黒斗が驚いているスキにまくし立てる。


「そうよ! 昨日あんたが言ってたやつ、受けて立つわ!」

 昨日黒斗が言っていたやつ……黒斗がナイトとしてあたしを守った数だけあたしからキスをするか、黒斗があたしにキスマークをつけるというあれだ。

「だからそれ以外では必要以上にあたしに近付かないで!触らないで!」

 叫びながら黒斗を睨む。

 後ろから抱きしめられているから直接は無理だけど、代わりに鏡越しに睨んだ。


 あたしは本気だと伝えるように。



 少し間があって、黒斗が「ふぅん……」とダークな笑みで言った。

 そしてあたしから離れる。


「いいぜ、そういうゲームも悪くない」

 ダークな笑みのまま、そう余裕で言う黒斗を今度は真正面で睨みつける。


「絶対に、あんたの好きなようにはさせないんだから!!」

 あたしは決意と共に、もう一度叫んだ。