しばらく睨み合う様に視線を交わした後、お母さんがフッと笑顔になった。


「分かったわ。じゃあ、これをよく読んでサインして」

 そう言ってお母さんは契約書をあたしに差し出した。


 お母さんも多くは語らない。

 社長として、お母さんは人を見る目がある。

 そのお母さんが『分かった』と言った。
 なら、あたしの決意は十分伝わったってことだ。


 だから、あたしは微笑んで「有り難う」と呟いた。


 そうしてあたしが契約書を手に取ると、お母さんはもう一枚紙を取り出してそれを黒斗に差し出す。

「それじゃあ、黒斗くんはこっちを良く読んでサインして頂戴」

「はい」

 黒斗は迷うことも無く返事をして受け取る。


「え? 何それ?」

 隣の黒斗を見ながら聞くと、お母さんが答えた。

「これも契約書よ。ただし、あんたのマネージャーのね」

「あたしの……マネージャー……?」

 どういうことなのか疑問に思いつつ、もう一度黒斗を見る。

 黒斗は困ったように微笑みながら説明してくれた。


「お前のマネージャーになれば仕事中も側にいられるだろ? お前が離れるなら、こうやって俺が側に行けばいい話なんだ」