「高志……?」

 あたしは声を掛けていいものか一瞬迷い、結局名前を呼んでみた。


 すると高志は弾かれたように反応し、気まずそうに顔を逸らす。

「っ……あー、オレトイレ行ってくるわ」

 そう言って高志はあたしの視線から逃げるように教室を出て行った。


「……どうしたんだ? 高志の奴」

 弘樹が不思議そうに首を傾げる。


 でもあたしは何となく高志がおかしい原因に気が付いていた。



 高志はあたしをじっと見ていた。

 あたしのことが好きだと言った高志。

 でも今は友達のままでいいと言っていた。

 そう“今は”……。

 
 さっきの寂しそうな表情は、友達のままでいられなくなったっていう証のような気がした。


 高志の心の中でどんな葛藤が繰り広げられているのかは想像も出来ない。

 だからそれを助けてやることもあたしには出来ない。


 ただその葛藤の先にある答えが、あたしにも高志にも良いものであることを願うしか出来ない。

 それが都合のいいことだというのは分かっていても……。



 文化祭の準備に追われる日々の中で、あたしは何かが起こる予感を感じていた……。