「黒斗、約束したよね。こっち来て」


 体育祭が閉会した後、あたしはチアの衣装から着替えもせずにすぐに黒斗を呼びつけた。

「もうかよ。まず着替えてくれば?」

「いいから来て!」

 あたしは有無を言わせず黒斗の腕を引っ張る。


 だって、今目を離したら逃げられる気がしたんだもん。

 逃がさないよ。

 黒斗のことも知らないと、救い出すことなんか出来ないもん。




 あたしは、人が来ない校舎の裏手の土手に黒斗を連れてきた。

 その坂になっている場所に二人並んで座る。

「で? 話って何だよ」

 黒斗はぶっきらぼうに聞いてきた。

 そんな黒斗に段々腹が立ってきたあたしは、同じようにぶっきらぼうに、単刀直入に言った。


「六年前のバスの事故のこと、弘樹から聞いた」

「なん、だって……?」

 黒斗は、驚いて目を見開いていた。


「黒斗がバスに一人取り残されたことも、事故の後、退院してきた黒斗が以前と変わらず明るかったことも」

 あたしは黒斗の目をしっかりと見据え続けた。


「六年も経っちゃったけど、弘樹は気付いたよ? 黒斗がずっと闇の中にいるってコト気付いたよ? それから、あたしに救って欲しいって頼んできた」

 そこまで言って、黒斗の様子を見る。

 弘樹の気持ちだけでも感じてくれないかと願いを込めて。