「幸いなことに、バスは途中の頑丈な木に引っかかって、落ちた衝撃は強くなかった。黒斗も、ちょっと酷い打ち身程度で済んだんだ……」

「そんなことが……」

 そのときの黒斗の気持ちはどんなだったんだろう……。

 同じような体験もしたことが無いあたしには想像もつかない。


 ただ、それが原因で他人に心を開かなくなったというのは分かる気がした……。


「そんなことがあったら、そりゃあ他人を信用できなくなるよな……」

 弘樹の言葉に、あたしはただ頷いた。


「でもな、黒斗は変わらなかったんだ」

「え?」

「退院してきた黒斗は、前と変わらず明るかったんだ。……申し訳なかったって謝るクラスメイトに、仕方ない、気にするなって……」

「それは……」

「そのとき、気付くべきだったんだ! なのに誰も……先生やクラスメイトたち、誰一人気付かなかった! ……仮面の顔しか見せてくれない俺の言葉じゃ黒斗は救われない……」


 でも、と弘樹は落ち着きを取り戻してあたしを見た。


「黒斗、友と二人だけの時には偽りの仮面をつけないで接してるだろ? だから多分、あいつを何とかできるのはお前だけなんだ……頼む、黒斗を救ってくれ!」

 そう言って頭を下げた弘樹。

 表情は見えないけど、その悲痛な思いは痛いほど伝わってきた。


 黒斗の本性を知っていると言っても、今は距離をとられている。

 それに、あたしに黒斗を救い出せるかなんて自信は無かった……。


 でも……。

 それでも、弘樹の思いに応えてやりたかった。


 友達……だから……――。


 そして、黒斗が好きだから……――。


「……うん……分かった。出来る限りのことはしてみる」


「友……ありがとう……」



 あたしに黒斗を救えるかなんて分からない。

 でも、出来るなら救い出してやりたいと思った……。