「いいんだ……。それに、友に話したかったのはこんなことじゃない」

「え?」

「俺はきっと黒斗がそうなった原因を知ってる。いや、絶対あのことが原因だ」

「あのこと?」

 あたしはただただ繰り返すように聞いた。


「うん……あれは六年前のことだよ……」

 弘樹は空を仰(あお)ぎ、思い出しながら話し始めた……。



「小学校四年のとき、春の遠足でバス移動していたときのことだ……。山道を走っているとき、バスがスリップしてしまって車体が半分崖の方に落ちてしまったんだ」

「なっ!?」

「不安定な状態、皆パニックになった。同じバスに乗っていた先生とかも、完全に落ち着いて生徒達に指示することが出来なくて……皆でこぞって出口から出ようとした」

 確かに、そんな状態でパニックに陥(おちい)るなと言う方が無茶なのかもしれない。


「先生や運転手さんたちはパニックに陥りながらも、それでも最後の方まで残ってた。生徒の安全が第一だから……でもな、そんなときパニックに陥るのはやっぱり危険なんだ……」


 弘樹はそこで頭を抱えて、続けた。



「黒斗が、一人バスの中に取り残された……」


「っ!?」


「先生も混乱してて気付かなかったんだ……。バスから降りて確認して、やっと気付いた。でも、先生が助けに戻ろうとしたとき、バスがついに落ちたんだ……」


 あたしは思わず手のひらで口を塞いだ。