「クッ……お前のそういう泣きそうな顔、久しぶりだな。その顔見ると、もっといじめてやりたくなるんだよ……。どうしてやろうかな……?」

 他に通行人がいないため、黒斗は本性を抑える事も無くあたしを苛め抜こうとしている。

 あたしは怖くて……ただただ怖くて……唇をカタカタと震わせていた。


 その唇に、黒斗の指が触れる。

 しばらくその指は唇をなぞり、やがて口の中に入ってきた。


「ん!?」

「噛むんじゃねぇぞ?」

 そう言いながら、黒斗の指はあたしの舌をもてあそぶ様に触れてきた。

「んっふあっやっ……」

 そんな風に声をもらすあたし。

 黒斗はそれを目を細め楽しそうに見つめていた。


 黒斗にとって、あたしもオモチャのような存在でしかないの?


 暗い眼差しで楽しそうに見つめてくる黒斗を見て、あたしはそう思った。


 でも、だったら尚更分からない。

 キスをしてくるときの優しい黒斗が……。


 あの黒斗も、ニセモノだって言うの?

 分からないよ……。


 そう考えているうちに、あたしは本当に泣いてしまった。

 でも、だからといって黒斗は指の動きを止めることは無かった。

 むしろもっと泣けとばかりに、指は深く、口の中を犯していく。


 あたしは息苦しくて、黒斗の腕にすがりつくようにしがみついた。


 その瞬間黒斗の表情が、とても嬉しそうな暗い笑みになった。

 あたしはその笑みに引きずられないようにするのが精一杯で、そのあとのことは良く覚えていない。



 ただ、このとき分かったのは……。


 黒斗の闇は、あたしが思っていたよりも、暗く深いものだということだけだった。