その後、弘樹とはすぐに別れてあたしと黒斗は寮へ帰ることにした。


 あたしはこのとき上機嫌だった。

 結果としては残念なものになったけど、弘樹の役には立てたみたいだったから。


 それに何より、友情が深まったってのを実感していたから……。

 多分それは、黒斗も思っていたはず……。


「良かった」

 あたしは思わずそう呟いた。


「何がだよ?」

 その呟きに聞き返してきた黒斗に、あたしは答える。


「弘樹のこと。ちゃんと役に立てたみたいで良かったって」

「あっそ」

 そっけなく言った黒斗に、あたしは「それにね」と付け加えた。


「黒斗にも、友情とか芽生えたかな? って思って……」

 そこまで言うと、突然塀(へい)に体を押し付けられた。


 え?


「お前さ、なんか勘違いしてねぇ?」

 暗い黒斗の目が、あたしを射抜いた。

「弘樹に礼言われて照れくさそうにしてたのは、仮面を被ったいい子ちゃんの俺。本当の俺は何とも思っちゃいねぇんだよ」


 嘲るような、イヤな笑顔。

 暗く深い黒の瞳に、あたしは心を壊されるような気分になり、今にも泣きそうになった。