弘樹は当然のように悩殺されていた。

 でも、すぐにその表情は哀しそうな微笑みに変わる。


「いえ、俺の方こそ、有り難う御座います。こうやって、ちゃんと、会う機会をくれて……」

 そこまで言った弘樹は、おもむろに立ち上がった。

「すみません、俺、これで失礼します!」

 言うが早いか、弘樹はその場を後にした。


「ちょっ、弘樹!」

 一応呼び止めてみるけど止まるわけが無い。

「黒斗、先追いかけといて」

「ああ」

 そうしてあたしは三人分の代金を財布からとって、テーブルに置いた。


「これ、オレ達の分の代金です。それじゃあ、今日は有り難う御座いました」

 そう言ってあたしもすぐに弘樹を追おうとした。

 でも、その前に和さんに袖を掴まれる。


「待って……さっきの、質問のことだけど……」


 質問……?

 あ、罪悪感とか無いのかってやつ?


「僕は、今の状況のおかげで、得たものが沢山ある……。だから君も、得るものが、あるんじゃないかな……?」


 それは、質問の答えとしての言葉じゃなかった。

 でも、その言葉はあたしの中にストンとしっくりはまったんだ。


 答えではないのに、何だか答えが見つかったような気がした。


「本当に、有り難う御座いました!」

 あたしは色んな意味を込めてもう一度礼を言い、今度こそその場を後にした。