ピンポーン、って。 愉快に響く電子音。 それに「はい」って応答があったのは、案外すぐのことだった。 「突然すいません。今日、向かいに引っ越してきた、汐留と申します。」 あたしと接する時とは違う声を発する、お母さん。 その隣で、お母さんに向けるものとは違う笑顔で、待ち構えるあたし。 こういう時、あたしとお母さんは親子なのだと実感する。 「…あぁ、なるほど。わかりました。 今からそっちに向かうので、ちょっと待っててくださいね。」 ―…驚くくらい、低くて甘い声だった。