「じゃあ、先生。またね」

 梶原は最後にチュッとキスをして美奈実の部屋を出た。

 最後のキスは、やはり頬だった。

 バタン、とドアが閉まると寂しさが部屋いっぱいに広がる。

 この部屋に越してきて、寂しいと思ったのは初めてだった。

「またね、か」

 レースのカーテン越しに梶原の邸宅を眺めていると、しばらくして向かいの部屋に明かりが灯った。



 再来を告げた最後に、曖昧な関係のアイロニー。



 めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に
 雲隠れにし夜半の月影

 紫式部



 めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に
 雲隠れにし夜半の人影

 玉置美奈実