人心は、木漏れ日に似る

沖下は、深呼吸して江上冬乃へ向き直った。

たぶん沖下は、努めて冷静になろうとしているのだろう、と海里は思う。


「江上さん、私、いきなり手をはたかれたら悲しい。

私達、あなたの帰りが遅いから、心配して迎えに来たのよ」

沖下が、懸命に冬乃へ話し掛けるが、冬乃は眉間のしわをいっそう深くする。


「先生の都合なんて知らないし。

こっちに手を突き出すの、イヤだからやめてって、前からずっと言ってたのに!

なんで言うこと聞かないわけ!?」

まるで子供をしかる母親のように、上から目線で冬乃は吐き捨てた。

まったくしょうがないんだから、という、あきらめと同情すら混じった声だった。


これは、と海里は思う。

これは、崖の上、川岸での時と同じ態度。

江上冬乃は、はぐれて独り泣くような子ではない。

あきれるほど、自分勝手な女子だった。