次の日の朝、目覚めるとすぐにある場所に目を向けた。
それはベッドの横のテレビ台。そこには茶色の折り紙で折られた猫が置いてあった。
私は上半身を起こし、その折り紙を手に取った。
『……ってかこれタヌキじゃん』
思わず独り言を言ってしまった。
そしてクスリと笑みがこぼれた。考えてみればこんな風に笑ったのは久しぶりな気がする。
入院してからずっと不機嫌だったし、鏡で自分の顔を見るのが嫌なくらいだった。
私は折り紙をポケットに入れて、部屋のカーテンを勢いよく開けた。
窓を開けると久しぶりに嗅ぐ朝の匂い。スーと体に染み込んでなんだか清々しい。
『おはよう、マイちゃん』
ガラガラとドアが開き、いつものように中村さんが入ってきた。
『………おはよう』
入院して初めて挨拶を返してみた。
少しぎこちなかったかな?なんて思っていると中村さんが嬉しそうに笑う。
『今日のマイちゃんは機嫌がいいのね。何かいい事でもあったの?』
私は再びベッドに戻り、トレーナーの袖を捲った。
『挨拶ぐらいで機嫌がいいって思われても困るし』
やっぱり次に出てくる言葉は憎まれ口。中村さんは私の腕に血圧機具を巻きながら窓際を見た。
『違うわ。だってほら、カーテンも開けて窓も開いてる。マイちゃんいつも嫌がってるのに』
図星の事を言われても私は素直に認めなかった。