とても、か細くか弱い声だった。
小さく零れたそれは、すぐに暗闇に消えてしまった。

「月子ちゃ…」

その瞬間、視界が暗転する。

長い瞬きをしていたような錯覚の中、ドサリと何かが倒れる音がした。

瞼を開くと暗闇に浮かぶ天井。
もう何度も経験してきたこの違和感。

ガバリと体を起こすと、急に動いたからか眩暈がして思わず頭を押さえた。
ふと視界に映ったのは、右手に巻かれた包帯。
だけど自分の右手じゃない。
これは、これは月子ちゃんの…

「……月子ちゃん…?」

呟いた声は、自分のものじゃない。
ギシリとベッドが鳴る。

見回した視界に映った光景に、先ほどの音の正体を知る。
ベッドのすぐ脇に、自分が倒れていた。そう、ぼくが、“鈴木陽太”が。

ぼくは、月子ちゃんになっている。
ということは、そこで倒れているぼくの体には、月子ちゃんが居るはずだ。

どうして、このタイミングで?
今までみたいに、逃げたいと思ったわけじゃない。
もう月子ちゃんを巻き込まない為に、ちゃんと自分の手で月子ちゃんの力になりたくて、守りたくて…もう逃げないって、思ったんだ。

「月子、ちゃ…月子ちゃん…?」

まだ尚重たい体をひきずりながら、ぼくの体を揺さぶって月子ちゃんを呼ぶ。

どうしたんだろう、ぼく眠たかったっけ?
むしろ逆に未だかつてないくらいに興奮していた気がするんだけど。

「…っ、月子ちゃん…?!」

イヤな予感がした。

ぼくは半ばムリヤリに、揺すったり叩いたり耳元で叫んだりした。

だけどぼくの体は、子ちゃんは…目を覚まさなかった。