嘘でもいいから



「・・・もう、帰る時間?」


何も言わない彼に、私からそれを尋ねる。


違う、今日は1日ずっといる、


お願い、そう答えて。


「そうだね、・・・あと30分くらいしたら出ようか」


所詮、私は彼の不倫相手。


世間からすれば、こんな気持ちはドロドロした汚いものに見えるのかもしれない。


だけど、


私の彼への想いは、純粋そのもの。


「・・・そっか」


どうして、その口は私を求めてくれないの。


どうして、その体は私だけが独占できないの。


会社では上司と部下の関係。


外では不倫の関係。


結局、どうすることもできないこの関係に、


私は甘んじ続けなければいけないの。


ねぇ、それならせめて。


「・・・ねぇ」


髪をなで続けるその手を握って、


私は彼の上から彼の顔を見つめる。


その瞳に映る私は、


今にも泣きそうな顔をしながら、答えを求める。


「私のこと、愛してる?」


薬指の付け根が私から見えないようにして、


私は彼の唇に唇を重ねた。


嘘でもいい。


愛してると言って欲しい、そう呪文を掛けるために。


「・・・愛してるよ」


上半身を起こして、再び彼が私の唇をむさぼり始めた。


帰したくない。


帰さない。


私だけを見つめていて。


私だけを愛していて。


私だけのものになって欲しい。





その欲望を押さえつけるために。


嘘でもいいから、


愛していると、ささやいて。



















~Fin~