静かだった。
口を開かなければ永遠にこの沈黙が続きそうだった。
けれどそれは今までに味わったどの沈黙よりも重く苦いものだったから、きっとこの時間が長く続けばどちらかが壊れてしまう。
「沙霧が離れていったら、きっと釧奈は哀しむよ」
思うように動かない口を無理やり動かせば、彼も私と同じようにぎこちない笑顔を貼りつけた。
「お前らの会話が聞こえたって知った時、どう思った?」
「どう、って…」
「怖いと思わなかったか。そりゃそうだ、プライバシーなんてあって無いようなもんだからな」
何が楽しいのかと思うほど、その言葉たちは沙霧自身を深く突き刺しただろう。
自分を痛めつけ、嘲笑い、そうして彼は涙をこらえていた。


