それはたった一瞬の、



沙霧が眉を寄せて苦しそうに天井を仰ぐ。

「あいつはすぐ俺の中に入って来る。だから少しでも遠ざけたいんだ」

理由を聞いてますますわからなくなった。


いつも沙霧の側にいて笑ったり怒ったり、楽しそうな釧奈。

沙霧が釧奈を突き放したらきっと彼女は哀しむ。

それをわかっていて遠ざけたいなんて。


その目に鋭い光が宿る。
貫くような視線が私を見据える。

沙霧の瞳が、肩が、唇が、小刻みに震える。

取り残された釧奈の姿とそれが重なって、部屋の中が哀しみに沈んでいく。


そこから救い出してくれる人がいるのかと思うほど、深く、深く。