「柊…」
釧奈の呟きにゆるゆると顔を上げると、シルクハットを深く被り直した柊が立っていた。
その下から虹色の輝きがこぼれたように見えるのは気のせいだろうか。
そのぐらい彼は、この場で絶大な存在感を持っていた。
「君はそれでいいのか」
落ちついた声音が鼓膜に届いて、周りの音が消えていく。
聞こえるのは彼らの会話のみ。
「藍火、柊から聞いたでしょう。あの灰色の空は私自身です。
…正しくは、私の脳が映しだす世界です」
純粋な子どもが思い描く、青い空。
スクリーンにその映像を映しだそうと始まった実験。
唯一、研究ノートに「失敗」と書かれなかった人。


