気を遣う必要もないのに、足音を立てないようにそろそろと歩いてしまう。 ゆっくりとドアをノックすれば、板一枚隔てた向こうの空気が怯えて震えるのが読みとれた。 「…よもぎちゃん」 向こうに行けと言われた。 関わるなと言われた。 けれどその頼みを受け入れられる程、私は優しくない。 「来ないでください」 真っ直ぐに私の胸を圧迫する言葉。 でもここで負けたら、二度と戻れなくなる。 「よもぎちゃん、」 「来ないでください…!!」 悲痛な、ガラスが割れるように儚い声だった。