母さんの小説は、幼い私にはちんぷんかんぷんだった。 見たことも無い漢字やよくわからない例え。 ――空が笑っている。 この表現ひとつとっても、私は上空を見ながら空のどこが口でどこが目なのか真剣に考えたものだ。 そして後ろで必死に笑いをこらえている両親を怪訝な目で見ていた。 今思えば、つくづく冗談の通じないバカな子どもだった。 だけど私はあの頃から、少しでも進歩できたんだろうか。 誰かに手を差し伸べたり、誰かの心に残るものを与えたり、そんな人になれているのだろうか。