「さ、行こうぜ」 「い、いやです。離して…」 声が震えていた。 ダメだ。もっと大きな声を出さないと。 樹に「助けて」って言わないと。 「別に何もしないってば」 「来いよ、ほら」 腕を引っ張る力に抗おうとして、足を踏ん張り、わたしはとうとう座り込んでしまった。 走って逃げなきゃいけないのに。 樹、どうしよう、足が動かないよ。 「どうする? ここでこのままヤッちゃう?」 一人が抑揚のない声でそう言った。 「真琴っ!」 そのときトイレの入口から大きな声が聞こえた。