夜をすり抜けて


また前を歩き出した彼の背中を見る。


その温かい手を離してつかむ幸せが、どういうものなのかわたしは知らない。


その手と引き換えに欲しいものなんて


わたしにはない―




ねぇ樹…


佐伯さんじゃなきゃダメ?
美里さんじゃなきゃダメ?




タンッ

と一歩踏み出し、わたしは樹の手を取った。


「ん?」


両手で包みこみ、それをギュッと握る。


「どした?」


不思議そうな樹の声。


「あのね、あ…合図」


頑張ろうの合図。