夜をすり抜けて


「迂闊に…押したわけじゃないんだ」


独り言みたいにぽっつりと彼は言った。


「だまされて押したわけでもない」


保証人のハンコのことだ。


「起業なんて水物だから、もしも佐伯さんがポシャったとして、自分はそれを背負えるのかって…マジで考えた」


「…うん」


そうして樹はその借金の保証人になったんだ。


「こんなことバカだと思われるから誰にも言わないんだけどな」


「え、今言ったし」


「お前は特別」


「子供だから?」


「いや…」



彼はちらっとわたしを見て、鼻の頭をポリッと掻いた。





「真琴はきっと、笑わないから」