「好きって感情だけで付き合えると思う?」


「どういう意味?」


「長い目で見れば、好きなんて感情、付き合ってすぐに無くなっていくから」


「えぇ!?」


「楽しいのは片思いしている時くらいよ」


ここで、店員がさっき頼んだ飲み物を持ってきた。


私は、カルーアミルク。


彼女は、カシスウーロン。


暗いオレンジ色のカクテルを斜めに掲げながら、


美衣は私の目を見つめながら、突然こう切り出してきた。


「怜ってさぁ、今は好きな人いないの?」


くすくすと笑いながら、美衣は顔を覗き込むように前に乗り出してくる。


「えぇ!?なんで私の話なの!?」


思わず口にしていた、


私の大好きなカシスウーロンの入ったグラスを落としそうになった。


「いいじゃん。怜だって女の子なんだし。


それなのにさぁ、私にあんまり好きな人の話してくれないじゃない」


「いや、だってそれは、今まで好きな人がいなかったから」


焦ってつい口にしてしまったその言葉に、にやり、と美衣が笑う。


「ん?それじゃあ、今はいるの?」


いつもはぼんやりとしている美衣なのに、こういう時はやたらと鋭い。


「い、いや、そ、それは」


私は美衣から遠ざかるように背中を背もたれにつけたが、


美衣はさらに体を乗り出してきた。


「おやぁ?なんでそんなに焦ってるのかなぁ?さては、好きな人、できたでしょう?」


言外から、白状せよ、との圧力がかかってくるのを全身で感じていた。


目の前の美衣の顔は、満面の笑みを浮かべ、


まるで何かの勝者のように勝ち誇ったような表情だ。


「・・・」


美衣の強引な押しには、いつも勝てない。


私は観念して、私の、20歳にして初めて恋した相手の話をした。