虹が見えたら


なるみは話のついでのような口ぶりで、真樹に言った。

「あの、真樹さんにはどんなにお礼してもしつくせないくらいお世話になってしまったんですけど・・・私、高校を卒業したらお兄ちゃんと暮らそうかと思うんです。

せっかく半分血のつながった兄が見つかったのに、これ以上、真樹さんにお世話になるのは・・・」



「なるみちゃんは大学へ行かないの?
ここの大学へ進めば、この寮のままで通えるんだよ。」



「だ、大学なんて・・・そこまで甘えるわけには!」



「遠慮しなくていいよ。僕は伊織がなるみちゃんに本当のことを言えないようだったら、ずっと僕が兄貴らしいことをしてあげるつもりだったからね。
最初に説明したとおり、恩だってあるんだし。」



「私は早く働いて自立したいです。
自分でやっていけるメドがついたら、新しいこともやってみたくなると思うし。」



「でも、それだったら高卒後専門学校に入学するとかしないと、無理じゃないかな。
今は資格でもないと就職難だし。

あ、だったら僕のマンションから通うかい?
空き部屋もあるしね。」



「いえ、高校といっしょにこの寮からも卒業していきます。」



「僕からも卒業してしまうの?
もう顔も見たくないってことなの。」



なるみは、一瞬どきっとしたけれど、勇気をふりしぼって言った。


「ここまでお世話になって申し訳ないんですけど、高校卒業を区切りにしなきゃ私は前に進めないから・・・。ごめんなさい」




「すごい覚悟なんだね。まいったな・・・
僕の言葉をはさむ余地はぜんぜんないみたい。
あとは修学旅行に行って高校生活を存分に楽しんで。」



そう言い終ると真樹はどこかに出かけてしまった。
つらそうな顔をしてなるみを見ることは何度もあった。
けれど、今がいちばんなるみには、心が痛む顔だった。