「何が食べたい」


助手席に乗り込んできた同僚が広げたビニール袋には、


おにぎりが数個、ゆでたまごが4つほど入っていた。


彼はゆで卵とおにぎりを1つずつ取り出し、


嘘っぽい味が付けられたゆで卵をちびちびと食べた。


「昼飯分まで買ったんだけどな。


ちょっと、昼は違う所で食べることになって」


少し嬉しそうな表情を浮かべたのを、彼は見逃さなかった。


しかし、彼はその理由を聞かない。


ただ黙ったまま、不活発な胃の中に、ゆで卵を落としていく。


「今日は、良い天気だね」


不意に、彼がそんなことを口にした。


同僚は少し驚いた様子で目を見開いていたが、


すぐに窓の外に目を遣っていた。


ここ最近天気が悪かったが、


この日の天気は、「快晴」という言葉がよく合った。


雲ひとつない、青く高い空を、2人目を細めて眺める。


「・・・あぁ。そうだね」


太陽の光で、暖房が不要なほど、車内は温かかった。


ちらり、と助手席に座る同僚の横顔を盗み見る。


何故か胸が、ちくりと痛んだ。


「・・・なぁ」


「何?」


少しためらうような沈黙が漂う中、


彼はある問いを、同僚に投げかけた。


「もしも、・・・自分がいなくなったら、悲しんでくれる奴、いるか?」


同僚は少し怪訝そうな顔をしていたが、


すぐに彼は答えを返してくれた。


「・・・さぁ、な」


青い空は、眩しいくらいの光を車内に送り込んできた。


目を細めずにはいられないほどに。


「ただ・・・」


同僚は、少し俯いて、ぽつりと零すように呟いた。


「アンタがいなくなると、・・・少なくとも俺は悲しい」