しかし、1時間もしない間に彼は出てきてしまった。


出入り口で、財布の中をのぞく。


あの「死神」やら「天使」やらのおかげだろうか。


一切損することなく、むしろ費やしたお金は倍になって返ってきた。


あのまま続けていれば、大フィーバーとなって、お店の中でも騒がれたことだろう。


しかし、彼は続けなかった。





彼は、紺色の、くたくたのスラックスのポケットに財布をねじこんで、


再び歩き出した。


彼の足音は、パチンコ店の騒音と、道行く人の足音にかき消されている。


彼の耳にすらも、その音は届いていなかった。