……なんだ、こいつ。




呆気に取られていると、女は慌てて立ち上がった。


寒さからか、鼻が赤く染まっている。



「なんでこんなとこで寝てるの?行くとこないの?」



ああっ!?

ベンチで寝ちゃ悪いのかよ!!


半ば逆ギレをしながら、おれは女から顔を背けた。


さっさと帰れよ。


そういう意味だった。



「えー、無視?ねぇねぇ、行くとこないならウチにおいでよ!!」




………はっ?




思わず振り向いた。


女は同意を求めるように、おれの瞳をじっと見つめている。


居心地が悪くなったおれはベンチから飛び降り、宛もなく歩き出した。



「(…意味わかんねぇ女)」



どうせなんか魂胆があるから“ウチに来い”なんて言うんだろ?


なんだ、慰めでもして欲しいのかよ。


おあいにく様、おれは御免だ。



「ちょ、ま、待ってよ!!」



―ガシッ!!



腰に腕が回されていた。


身を捩るも、がっちりと固定されていて離れない。



「て、てんめぇ…!!おれになんの用だよ!!!!」



昂った感情のセーブが効かず、気付いた時には女に殴りかかっていた。