しばらく玄関先で、声を押し殺すことなく維奈は泣き続けた。


おれは抱きしめることもできない両手をフラフラと彷徨わせてじっと黙っていた。


…雨音は強くなるばかりだ。


耳障りなのには変わりがないけど、維奈の悲痛な泣き声を僅かに掻き消してくれる。


それだけで、少し雨が好きになれた。



「………ごめ、っんね…、たろー…ちゃん…」



にへら、と無理やり作った笑顔。


胸の中に黒い感情が渦を巻くのを確かに感じた。


んな顔見たくねぇよ。


なんだよそれ。


維奈のくせに、おれに気遣おうとすんな。



「…早く風呂入ってこいよ、風邪引くぞ」



水浸しの服の裾をくんっと引くと、維奈はハッとしたようにおれから離れた。


それから慌てたようにブーツを脱ぎ始める。



「うわ、履いたままだった!!もう、たろうちゃん言ってよー!!」



…今頃気付いたのかよ。


しかもおれが悪いのかよそれ!!



「たろうちゃんまで少し濡れちゃったね、…ごめんね」



こっちが切なくなるような、さっきとは違う笑み。


作り笑いなんかじゃなくて。


困ったように眉を下げて維奈は小さく笑った。



「……気にすんな、ばか」



おれは急に維奈の顔が見れなくなって、こくこくと首を縦に振った。


想いは伝わったらしい。


維奈はニッと笑うとパタパタと駆け足で部屋に向かい、そのまますぐに風呂場に入って行った。



残されたおれ、は。



「(なっ…なんだよあの顔っ…!!は、反則だろーがあのバカ!!!!)」



誰もいないのを良いことに―――


廊下で蹲り、しばらく悶絶していた。