ここ最近、幸枝は寝ていることが多かった。


この日も、大きなベッドの中に体を沈めて、夢さえ見ずに寝ていると、


ドアのノック音で目が覚めた。


「お嬢様、失礼いたします」


ぼやけた視界に浮かぶハナの顔は、少し遠い。


彼女は力を込めて上体を起こした。


「何かしら?」


「ご無理はなさらずに。寝たままで結構でございますよ」


ハナは右手に何かを抱えている。


「お嬢様、明日はこちらのほうにお着替え願えますか」


「・・・それは?」


ハナは失礼します、と言いながら、彼女の体の上にかかる掛け布団の上に、


それをひらり、と広げた。


「ドレスでございます」


てかてかと光った生地に、


花びらのように可憐なレース。


薄桃色のそれは、桜の花びらを連想させた。


「いかがでございましょうか」


「素敵ね」


幸枝はため息を零すかのように、そうつぶやいた。


「ということは、・・・明日なのね」


「はい。明日でございます」


幸枝は窓の方へ顔を向けた。


ハナには、彼女の表情が見えない。


ただ、その小さな背中には、あまり喜びというものは見えなかった。


「・・・そう。・・・藤條様がいらっしゃるのね」