俺は果たして『それだけ』で済ますことができるんだろうか?
それが躊躇う理由の一つだ。

言ってしまいたくなる。全部。
言って、自分のものにしたくなる。



「奏。」

「ん?」

「もう放課後だけど?」

「…何が言いたい?」

「…行くなら今。
そろそろイケメンな奏の顔を見たいって女子たちが騒いでたよ?」

「ウソつくな。
俺の表情を読み取れる人間なんていないんだよ。」

「…まーね。たった二人を除いては。」

「二人?」

「俺と彼女。だろ?」

「…確かに。」

「行ってらっしゃい。」

「…ああ。」




もう限界だ。
この気持ちを抑えておくことも、あの笑顔が見れないことも。


俺の足は行き慣れた道を忘れてなどいなかった。