* * *


放課後になった。
昨日は行かなかったから…さすがに今日は行っても構わないだろ…?
そんなことを思いながら数学家教材準備室に向かう足取りは、思いのほか軽い。



「奏くんっ!!」

「…。」



彼女を『好き』だと気付いてから、憂鬱になるのはこの声のせいだった。

『奏くん』『奏様』
どう呼ばれたって不快だ。
彼女に会うのを阻む者は…特に。


「あのっ…もし良ければ…今度の日曜日…。」

「ごめんね。先約があるんだ。」

「…それって…相模先生?」

「え?」


別に先約は彼女ではない。
だけど、その名前が出てきたことに驚きだった。


「…あたし…奏くんが先生のところに入り浸ってるの…知ってるんだから。」

「…だから…なに?」


比較的冷静さを保って、そう続けた。