エンプティープリンス

「え…?」


俺は彼女の腕を引き、そのまま抱き寄せた。


「もうちょっと…このままでいさせてくれる?」

「…ええ。」


少し困惑していたみたいだったけど、それでも俺の腕の中で身を任せてくる彼女。
それに優しい手が俺の背中をさする。
その温もりがやっぱり不思議なくらい安心できて、ずっとこうしていたいと思う。
でも…それは許されない。
俺と彼女は、生徒と教師だから。



「ありがとう。なんだか安心した。」

「安心?」

「うん。俺…今日は帰るね。」

「気を付けて…。」

「うん。」




俺は数学家教材研究室を後にした。

元々そうだったけど、今日ほど自分の心が見えない日はない。
そう思った。