エンプティープリンス

* * *


数学家教材研究室に戻るとすぐにお互いの定位置につく。
そして彼女はすぐさま仕事を始める。

いつも通り、俺に背を向けて。

その姿がどれほど無防備なのかを知らない彼女は、ある意味犯罪者だと思う。


「先生。」

「何かしら?」

「仕事しながらでいいから、ちょっと聞いてくれる?」

「…そんな声で話すってことは少し…大切な話ね。
もちろん聞くわ。」


そう言って彼女はくるっと向き直って俺のそばにやってきた。
そして隣に腰を下ろす。
こういう時、やっぱり彼女はなんだか『特殊』なのだと思う。
俺の声一つで、俺の感情をほぼ100パーセント読み取ることが出来るからだ。


「どうぞ。」


いや…どうぞって…。
近すぎるでしょこの距離。


「あ…はい…。」


でもその目の真っすぐさに負けて、俺は口を開いた。



「さっき…先生は理由を聞かないでいてくれたよね。」

「え…ええ。」

「それって…俺が話すのを待っててくれたって解釈でいい?」


コクンと頷く彼女。