エンプティープリンス

「そうなの…。それじゃ、仕方ないわね。
でも…いつもは温厚で優しい『王子様』が殴られても当然だと思われるようなことをしてしまったなんて…そこにはとても大きな理由があるのね、きっと。」


そう言いながら治療を続ける彼女。
そんな中俺は、とても不思議な気持ちの中にいた。

どうして…彼女は『チガウ』のだろうか?

彼女の発する『王子様』という言葉も、彼女と一緒にいるときに感じる気持ちも…。
他の女に言われても、他の女と一緒にいても決して感じることはない気持ち。

それに…廊下を歩いているときにすれ違いざまに色々な声を聞いたはずだ。
俺が悪いとか、俺は悪くないだとか。
そういう声にブレないで、俺の言葉を待ってくれるのはどうしてなんだろう…?



「治療は終わりよ。
教室に戻る?」

「いや…そんな気分じゃない。
先生はどこに行くの?」

「…教材研究室に戻るけど…。」

「じゃあ俺もそっちに戻る。」

「高橋くんの場合は正確に言うと『戻る』じゃなくて『行く』だけどね。」

「『戻る』でもいいじゃん。
そのくらい入り浸ってるよ?」

「それっていいことなのかしら?」

「勉強してるんだからいいことでしょ。」

「まぁ、そういうことにしておきましょうか。」

「その言い方だと俺、勉強していないみたい。」

「だってあんまり進んでないでしょう?」

「そういう日もあるよ。」