「…でもね、高橋くん。」

「ん？」

「私、貰ってばかりは嫌なのよ。
あなたの役に…立てないかしら？」

「え？」

「悩んでるなら相談してほしいと思ってるし、別に悩みじゃなくても…
どんな些細なことでもいいから…困った時にはちゃんと頼ってほしいわ。」

「…気持ちだけでじゅーぶんだよ。
じゃ、今日は用事あるからこの辺で。」

「え…あ…それじゃあ…気を付けてね。」

「先生もね。」





俺はそっと数学家教材研究室のドアを閉めた。


あれ以上踏み込まれちゃダメだ。
心の奥がそう言ってる。

でも…もう一つ声がするんだ。
彼女に全てを…さらけ出したい。

まさにジレンマ。

この二つがせめぎ合って、俺を眠らせてくれない。




「今日は1時間以上遅刻か。
何て言い訳しよう…。」

そう口にはするものの、実際俺にとってはそんな言い訳、どうでもよかった。

…名前もすぐに忘れてしまうだろう女のことなんて、どうでも。