* * *


「先生、表情が固くなくなったよね。」

「え?」

「って巧が言ってた。」

「ああ…宮野くんね。
そう言えば宮野くん、最近よく質問に来るわ。」

「女好きだから、あいつは。」

「え?」

「先生が変わったからじゃん?一歩前進。」

「…そうね。」


そう言って微笑む彼女。
彼女はよく笑うようになった。俺の前で。
そして少しずつ…みんなの前でも。


放課後、こうして数学家教材研究室に足を運ぶことは俺の日課になりつつあった。
ただし、昼休みに女に掴まらない場合に限り。



「高橋くん、ここ…計算ミスよ?」

「え?」


俺はカモフラージュとして置いてあった数学の教科書とノートに目をやった。
…確かに。くだらないミスをしてる。

『高橋奏』にとってはありえるはずのないミス。