エンプティープリンス

「え…?」

「あなたのくれる言葉には…不思議な力があるみたいだわ。
とても…自信がつく…。
本当にありがとう、高橋くん。」


彼女は優しく俺の両手をぎゅっと握って、俺の目を見ながらそう言った。
そんな風に俺を見つめる人間も、そんな風に優しく手を握ってくれる人間も、俺は知らない。
それに…たったこれだけのことで自分の内側が満たされていく感覚というものも…俺は知らなかった。この時までは。



「もう随分日が落ちるのが早くなったわね…。
ところで…高橋くんの用事はもういいのかしら?」

「あ、うん。
先生はもう帰るの?」

「まだ帰らないわ。明日の授業の準備があるし…。」

「じゃあ…ここで勉強していってもいい?」

「え?」

「家じゃ集中できないし、図書館だと女に掴まって勉強できない。」

「…まぁ…構わないけど…。」


そう言って彼女はデスクに向かって明日の授業の準備を始める。
俺に背を向けながら。

正直言って、『勉強する』なんて嘘だ。

俺は仕事をする彼女の背中をただ見つめていた。